DEEPWATER HORIZON INCIDENT

ルイジアナ州絶滅部族 ー原油流出事故ー 

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「絶滅部族」という言葉を

以前、アメリカ先住民の歴史を調べていた時に知った。

その言葉の意味は、実際に絶滅した部族を指すのではなく、存在を認められていない部族のことを指す。

アメリカ先住民を語る上で、外すことのできない強制移住の歴史、その負の余韻として今も残るものが「絶滅部族」。

違和感を覚える言葉だった。

 

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 アメリカ、ルイジアナ州。州の南西部は過去3年の間、カトリーナをはじめ4度も大型ハリケーンの被害をうけた地域。

 メキシコ湾に面した自然豊かな湿地帯とその近海で捕れるエビや牡蠣などの漁によって代々暮らしている先住民たちがいる。

 もともとこの地域に住んでいた多くの先住民は、1830年の「インディアン移住法」の制定により、オクラホマなどへの強制移住を余儀なくされた。

 それを拒否し、この地に残ったいくつかの少数部族、彼らは、アメリカ政府から部族存続の承認がされない、いわゆる「絶滅部族」として位置づけられた。

 彼らには、居留区は与えられず、税金や医療、災害時などの政府からの援助もほとんどない。

 

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 4月20日にメキシコ湾、ルイジアナ州ヴェニス沖南東80キロで起こったDEEPWATER HORIZON の爆発事故。3ヶ月が経とうとしているが未だ、流出は止まらない。

 海中約1500メートルから流れ出る原油は一日およそ56万~95万リットルに及ぶ。通常のタンカー事故などと違い海中深くから流出しているため、目に見える被害の何倍にも及んでいると推測されている。

 1989年に起こったアラスカ沖で起こったタンカー座礁事故。それによるオイル流出の影響は四半世紀経っても未だにある。それと同じ量のオイルがここメキシコ湾では、たった4日間で流出した。つまり百年たっても影響が残る可能性がある規模の災害ということだ。

 

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絶滅部族をまとめている団体、United Houma Nation(UHN)

 今まで、幾度となくハリケーン災害から立ち直ってきた。そんな彼らが今、アメリカ史上最大の原油流出事故に直面していた。

 UHNの約三分の一の六千世帯は漁だけで生計を立てている。残りはオイルカンパニーで働いている。もしくは冬はオイルカンパニーで働き、シーズンの時だけ漁をする掛け持ち労働者も多い。

 

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 最南西の島Grand Isleに続く1号線沿いに広がる湿地帯、漁業とオイル産業が支えるこの周辺、その町の一つGolden Meadow。

 道沿いにある家のテラスでは、ハンモックをブランコがわりに遊んでいる子供が二人、少し離れたところで見守っている祖母、そして仕事から帰ってきた夫がその横でバーベッキューを始めようとしている。いつもと変わらないであろう風景。

子供たちの母親であるラキュール。

 「今まで他のオイル会社なんかは何があったって保証なんかしてはくれないかったし、倒産したってそれっきり。

今回のオイル漏れはBPに責任があるかもしれないけど、彼らは保証もしているし、クリーンナップもしている。彼らだけせめるのは不公平。子供が何人かいて、一人だけ過度に叱るのはよくないでしょ。

 それにアメリカのマネーポケットと呼ばれているメキシコ湾なのだから、それなりにみんな恩恵は受けてきたはずよ。」

 感謝と擁護、けしてBPのことを悪く言わなかった。夫はBP、一家の収入を支えている会社に感謝するのは当然かもしれない。それに車社会のアメリカで、BPを利用したことのある人は多いはずだ。

 この事故は、誰かの問題で、誰かに責任を取らせるということではないのかもしれない。彼女と話していたらそう思えてきた。

 

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 朝8時前、海岸に一番近い湿地帯の先端の町ヴェニス。

 ここからは連日30隻ほどの船が出ている。港に着くとすでにネィティブの人をはじめ白人、東洋人、アフリカン系、南米系など様々な人種の人たちがそれぞれ海に出る準備をしていた。

 この日も34隻のボートにそれぞれ2、3人が乗り込む。BPの担当者の到着を待って、朝のミィーティングが行われた。今日の回収場所、天候、チーム編成を決め、ボートに回収用ネットを詰め込み海へと出て行った。

 帰ってきた彼らに話を聞けば、この作業にやりがいを感じ報酬にも満足しているという。季節的な収入しかない彼らにとって、この約3カ月は回収作業のおかげで生活は安定しはじめていた。

 ここで石油が見つかって以来、彼らはその恩恵と被害の両端を繰り返し受けている。

 

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 事故に対して、不安や心配を口にしない理由は、この回収作業の良い報酬にあるのだろう。エビ漁で使われる中型の船を出せばBPから一日$5000が支払われる。大型の船なら$10000以上、小さな小型ボートでさえ数百ドルはもらえる。

 連日100隻以上が回収作業で海に出ているという。エビの価格が下がっていて漁にさえでない人たちが多いことを考えると、この収入がどれだけ彼ら地元漁師を支えているかは容易に想像がつく。

 周辺のモーテルやレストランもBP関係者や回収会社の人、ボランティア、メディア関係者たちで予約も取れないほど繁盛している。

 

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 船もなく、漁師でもない人たちも、BPに雇われて働いている。普段、仕事がない大勢の失業者や季節労働者たちが時給$10以上で毎日安定して働けていた。

 海岸線やビーチにたどり着いたオイルの除去をしている。ゾーン1から15までに分けられている。Grand Isleでは1ゾーンに20人ほどが交代で、引き潮のときにスコップをつかって砂に混じったオイルをビニール袋に入れていく。

シャベルカーなどの重機での作業も行われているが、深く掘ってしまいすぎるそのやり方には、オイルがさらに土や砂の深くまで入っていく恐れがあるので、地元の環境保護団体などから批判の声が上がっている。

 

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 メキシコ湾の海水はもともと茶色く濁っていてるため、汚染が解りにくい。被害の多いビーチは封鎖されて入れない為、地元でさえ、その被害を同じようにテレビや新聞を通じて知るのだという。

 まだ、この事故の影響の大きさと深刻さにはっきりとは気がついていない地元の人が多いという。また、どこかそれを受け入れようとしない雰囲気があるように思えた。

 

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 UHNのチーフの父親、長年漁師をしてきたウィトニー氏に話を聞いた。

 ルイジアナの牡蠣が一番とウィトニー氏は胸を張って言った。

 アメリカの牡蠣の80%はこのゴルフコーストで捕れる。たとえ今のオイルがある程度綺麗になったとしても、オイルまみれのレッテルがついたルイジアナ産のシーフードを誰が買ってくれるのか?

 世界中の人たちからそのイメージがなくなるにはかなりの時間がかかる。海が綺麗になるにはさらにその何倍もの時間がかかるだろう。

 

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 事故以降、この周辺の海域では一切の漁が禁止されている。癌を患っているウィトニー氏は、身体に与える影響を考えると、回収作業にも行けない。

 実際、回収作業でBPに雇われている地元漁師はごく一部で、それ以外の多くの人たちはウィトニー氏と同じくエビ漁にシーズンの5、6月にもかかわらず漁に出れないでいた。

 回収作業で使われオイルまみれになってしまった船を、漁でつかうには、全てをクリーンアップする必要があり、それにもまたお金がかかる。

 8月からのシーズンも12月からの牡蠣シーズンにもそんな日々を過ごさなければならないだろう。生活への被害が直接的に表れている。BPからの補償も、ウィトニー氏に支払われるはずのチェックが2ヶ月間届いていない。

 

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 7月15日、事故後85日と16時間25分経ってはじめて、流出が止まった。

 実際は、地下の一部からは亀裂がはしり、漏れているオイルが確認されている。予定では8月中にセメントを流し込み完全に流出を食い止めるといわれている。ようやく最悪の状況から脱した。

 

 7月16日、Grand Isle周辺ではフィッシングが解禁になったという嬉しいニュースが流れた。

 解禁は一部で、レクリエーションフィッシング、いわゆるレジャーだけで、生計を支える漁としてのコマーシャルフィッシングはまだ当分その見込みもたっていないのが現状のようだ。

 

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 UHNのメンバーたちはハリケーンシーズンに入った今、その影響と及ぼされるであろう被害を心配していた。

 数週間前にはハリケーンAlexが通り過ぎ、新たにStorm Bonnieが発生していた。

 今後も強いオンシュアの風が続けば、ルイジアナ南部の広大な湿地帯はオイルまみれになり、多くの動植物が失われる。ハリケーンに乗って、流出した油が街に届く可能性もある。

 

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 数日後、新たな情報が入ってきた。

 オイルはもうすでに内海まできていた。内海の牡蠣が死滅していた映像を地元のテレビ局が報道した。まさにそこはウィトニー氏の牡蠣の漁場だった。

 牡蠣が一定の場所に育成するには通常3年から5年はかかる。内海が元の状態に戻る時間を考えると、74歳の彼はもう漁に出ることはないかもしれない。

 

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 部族のメンバーの中には生まれ育ったこの場所を離れ、移住を考える人も出てきているという。

 彼らは20年以上も、アメリカ先住民としての公式認定を申請し続けている。にも関わらず、依然として受け入れられていない。

 アメリカ先住民としての公式な認定をするということは、この周辺を彼らの居住区として認めることである。それはアメリカ有数の油田地帯であるこの地域の莫大な利権や開発が政府や企業の思惑どうりにはいかなくなるということだ。

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「次の世代のために我々はできる限りのことをしなければいけない」

 彼らUHNのメンバーはみな口をそろえて言った。彼らネイティブアメリカンは常に数世代先のことを想像し物事を決め行動をする。

 災害後も毎日彼らは輪になって集まり意見を交わしている。これも彼らネイティブアメリカンの昔からのやり方カウンシルファイヤーだ。18世紀半ばこのやり方を手本に近代議会制がイギリスやアメリカにできたといわれる。

 

 

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 次の世代を担うUHNの若いメンバー、ダナとジェイソンはUHNのサイトやユーチューブ、フェイスブックなどを利用して世界中に現状を伝える活動をしている。彼らはそれを観た人がさらに誰かに伝え、より多くの人がつながり同じ問題について考えてほしいと願っている。

 ネット上で多くの人が集まり話し合い、意見を出す。彼らネィティブの人々が代々やってきたやり方をインターネットを介して世界中の人と行おうとしているのである。完全に往き詰まっている部族の人たちにとって、新たな活路を見いだせる小さな希望となっていた。

 

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 19世紀には白人の入植の為、強制移住が行われ、20世紀には油田開発の為に彼らの権利は与えられず、そして21世紀には彼らの住む大地や海は、原油で汚染させられていく。

 ハリケーンのような災害なら自然と共存するものの宿命という捉え方もできたが、原油流出はそうではない。今回の事故も、鉱物資源との関わり方を考え直す、そんな警告に思える。

 

 『ハリケーンならなんとか力を合わせれば復興できる、、、、、今までそうしてきた。だが今回は、、、、、、』

 ウィトニー氏は、最後に言葉を詰まらせた。災害や苦難を乗り越えてきた先住民たち。その長老から聞けるはずの未来への言葉は、今ここにはないのかもしれない。

 

協力 United Houma Nation (UHN)

          

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