American Energy Road -New Mexico-

 

アメリカ エネルギーロード ーニューメキシコー

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 いつからエネルギーのことを考えるようになったのだろう。

 そんなことを思いながら走っていると、車はいつの間にかテキサスからニューメキシコへ。その南東にある街、カールスバッドに入った。ずっと続いていたオイルフィールドが終わりかけてきて、乾いた大地がさらに渇きを増しているように見える。ハイデザートと呼ばれる高地の砂漠地帯。ニューメキシコ特有のその地形が風景を覆い始める。道はその中へたんたんと続いている。

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 長いドライブはいろいろなことを考えたり、思い出したりする。

 20年ほど前、ニューヨークで電力自由化が起きたときは、ただなんとなく環境のことを思って風力を選んだ。でも、高い請求書が届きだすと、結局すぐもとに戻してしまった。普段の生活ではお金が基準になってしまう現実を自分自身で証明していたので、あまり偉そうなことは言えない。

 それでも、東日本大震災以降は嫌がおうにもエネルギーのことを考えさせられるようになった。原発事故の影響が続く日本でも、電力の自由化が始まった。みんな何を基準に自分の使うエネルギーを選ぶのだろうか。

 

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 カールスバッドの街はずれには、かつて地下核実験が行われた場所がある。

 そして、そのすぐ上に今は、WIPPという核廃棄物隔離試験施設が建てられている。処理できない核の廃棄物は、地下655メートルの場所で隔離保管しているだけ、つまり、過去の実験で汚した地下に、今度は放射性廃棄物を埋めていこうということだ。なんともアメリカらしい合理的な考え方だと少し感心してしまう。

 

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 州の南部、メキシコとの国境近くの小さな街を通るたびに、やたらとボーダーパトロールの車とすれ違う。

 ニューメキシコ州は、もともとはネイティブアメリカンが多く住む土地で、スペインの植民地としての長い歴史を経て、メキシコ、アメリカとなった。今でも多くのネイディブ、スペイン系、メキシコ系、ヨーロッパ系の人たちが混ざり合って暮らしている。

 近年、この州では、ハイデザートの広大な土地と強い日差し、降水量が少ないことなどを理由にアメリカの太陽光発電の中心地になろうという動きがある。州の北部には260エーカーの広大な敷地に太陽光ファームの建設が始まっている。南部のこのあたりでもいくつかの太陽光ファームを見ることができた。小さなパネルを低く敷き詰めているところや、何個もパネルをくっつけた大型のものまで色々ある。

 

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 何もない道がしばらく続き、メサと呼ばれる丘と丘の谷間にさしかかった時に、ウインドファームが出てきた。

 よく見ると白いタービンの下の敷地には太陽光パネルが並んでいる。そこを過ぎたところにバーがあったので、休憩しようと立ち寄った。あいにくバーは閉まっていたが、しばらくウロウロしているとバーの主人らしき人がでてきた。

 

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 主人のトーマスさんが、隣の大きな敷地にウインドファームが建てられたのは5年ほど前だと教えてくれた。そして、去年、ウインドファームの敷地に太陽光パネルが設置され、今年はさらに倍以上の太陽光パネルが設置される予定だという。

 彼は定年後、生活のために週3、4日だけバーを開けている。この辺りも電力会社に土地を売ったり貸したりして、リッチになった人がいるというのに彼はそうでもなさそうだ 。彼にこの土地を売ったりしないのか尋ねてみると、俺はいいよと首を振った。

 辺りをゆびさしながら、ここのやつらはみんな良い奴だと言った。なにより、ここに住むのが好きだと言う。数マイルは誰も住んでいないような場所で、彼はそう答えた。

 彼が、お金や便利さよりも優先したここにある何かを想像してみた。

 

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 リオグランデ川を遡るようにニューメキシコ州を北上する。州都のサンタフェを通り、一路ニューメキシコ州北の街タオスを目指す。

 

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 2年前、サンタフェの大学で行われていたSOLAR DAYというイベントに友人から誘われた。

 インドやアフリカなどの発展途上地域での太陽光発電プロジェクトの経験を持つ友人のクリスチャンが、その時に大学を案内してくれた。

 ニューメキシコという場所は原子力発電所こそないものの、ウラン採掘場を始め、未だに原子力の研究が続くロスアラモスやWIIPなど、アメリカの原子力産業とは切っても切り離せない州だ。しかし、そんなニューメキシコでも近年、持続可能なエネルギーに眼を向けたプロジェクトが盛んに行われ始めている。

 

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 キャンパスでは、太陽光発電だけではなく、小風力、バイオマスや水の再利用や家作りからエネルギー消費を考えるやり方などが発表されていた。クリスチャンは一つ一つ丁寧に説明してくれた。

 彼は今、アメリカ各地で小風力の普及に力を入れているという。小風力とは庭に建てられるぐらいのものから、学校の敷地に置けるぐらいのサイズの小さな風力発電の装置だ。小さな太陽光パネルでもその数倍の効率があることを考えれば、小風力はまだまだかもしれない。それでも十分将来的に役立つ、独立したエネルギーソースの一つだと思う。

 

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 小風力を実際に作っている工房に行ってみた。軽くて丈夫なレッドウッドの木を正確に決まった形とサイズに切っていく。ドラマ「北の国から」を思い出しながら、小風力作りを数時間たんたんと手伝った。電気がないと暮らせない現代人の一人に、この作業は、その電気を自分の手で作れることを実感させてくれた。

 

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 でも 、最近こういったエネルギーのことを再生可能とかサステイナブルとか言ってしまう感覚を、少し残念に思う時がある。何をもって持続可能というのだろう。

 太陽にもその寿命はあり、風はもっと変わりやすいものだ。だいたい川の流れを変えてせき止めダムを作ったものが自然エネルギーと呼べるのだろうか。それらをもって持続可能と言ってしまうこと自体が人間のおごりのような気がしてならない。

 どんなものにもかぎりがあるという想いから接していくことが大切なのではないか。黙々と削られているはずのレッドウッドの木が、逆に私に語りかけてくる。

 

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 タオスに向かう途中、ロスアラモスの街に寄った。実はこの街で、2012年から2年間ほど日本の大手企業や政府が協力して日米共同の一大エネルギープロジェクトが行われていた。このスマートグリッドプロジェクトに参加したアメリカ側の責任者の一人、ジュリアンさんに話を聞かせてもらった。

 ロスアラモスの住人の協力で、スマートグリッドハウス(Smart grid house)やスマートメーター(Smart meter)を使ったいくつかの実験が行われた。その一つは時間別の値段設定やフラットレートなど、どのようなプランが一番家庭のエネルギー消費と家計を抑えるか、という研究だった。この実験は一人一人のエネルギーに対するマインドの向上にも繋がったという。

 

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 プロジェクトのメインとなったスマートグリッドハウスとは、設置された太陽光パネルとバッテリーにより、そのエネルギーを余すことなく使い、あとの時間は、他の最適なエネルギーを自動的にコンピューターが選択するといったシステムだ。そして、その結果、環境にも良くなるという優れものなのだ。

 このシステムは今、ニューメキシコでは空港や大学ですでに実践され、私たちの生活とエネルギー問題の両方を支え始めている。

 

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 ジュリアンさんが言うには、近い将来、世界中の街にこのような設備が必要になるという。無駄なエネルギー消費を抑え、環境にもいい街づくりという素晴らしい構想。そして、今回のようなプロジェクトの成功を通して、日本の企業や政府が世界をリードすることになるという。

 

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 実験のために設置された1Mwの太陽パネルやバッテリーが残っていた。これらの設備やスマートメーターはこれからも各家庭で使われていくらしい。ここまで大規模なスマートグリッドの実証実験は日本ではまだ行われていない。

 どうして国内でやらなかったあのだろう。日本の名だたる大企業が日本の製品をつかって実験するのに、なぜアメリカの政府やこの街の協力が必要だったのか。このプロジェクトには莫大なお金が日本政府やそれら企業から流れているのも事実だ。結果がどうであれ、何かはがゆさも残る。

 

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 雪をかぶったタオス山が近づいてくると、背の低い木が続き、さらにハイデザート感が強くなった。大地がさけたような深い渓谷の下をリオグランデが揚々と流れている。

 タオスは、一千年以上前からこの地で暮らす先住民のタオスプエブロ族と農業主体で暮らす白人たちや自然を愛するアーティストやヒッピー系の人たちが混在しながらできた。この街のはずれで面白いプロジェクトが70年代から行われている。アースシップというそのプロジェクトは、地球環境と人間の生活を考えて家を作るというものだ。

 

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 家の建築に使われているのは、使い古したタイヤや空き瓶、空き缶といったどこでも手に入るものだ。リサイクルのもので作られた外観はどこか自然から影響を受けたガウディ建築を思わせる。グリーンハウスを家の南側に作り、北側は土をもって壁を覆う半地下のような構造になっている。

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 家の中には緑が多く置かれ、水の循環、空気の洗浄、温度の調整と何役もかっている。使う電気をすべて、屋根に付けられた太陽光や小風力で補うというもので、いわば元祖スマートハウスといった感じだ。電気の消費は極力抑えられている。

 とは言っても家の中には、大画面のテレビ、大きな冷蔵庫、洗濯機に乾燥機があり、生活スタイルはなんら変わりない。大きく南側全体に作られた窓により、朝早くから日暮れまで、部屋はとても明るい。

 

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 この窓はパッシブソーラーと言われるもので、冬に太陽の熱を十分に家の中に取り入れることができる。土で作られている家はその熱を夜の間保ち続けることができるので、暖房は必要ない。

 ちなみにタオスはスキーでも有名な場所で、冬は氷点下の日が続く。逆に夏は北側が土で覆われているため、家の中は地中の温度(58度)の影響を受け、日中の強い日差しをブラインドで調節すれば、部屋の中は涼しく保つことができるので冷房もいらない。

 それ以外にも、アースシップの家では雨水を循環させたり、室内グリーハウスで野菜を育てたりと自然環境と人間の生活の共存スタイルがいろいろと実践されていた。

 

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 アースシップは一つの家がオフグリッドで独立して暮らせることを証明している。こんな家が世界中にできれば素敵だと思った。その一方で、アースシップのプロジェクトは素晴らしいが、あそこで生活をするために彼らは、大きな4WDを乗り回すと言ったクリスチャンの言葉が思い出された。街に住むメリットとデメリット、自然の中に住む長所と短所。どちらにしてもまだ何か足りていない気がする。

 

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 長年ニューメキシコで太陽光発電の普及に携わってきた専門家の話では、もちろん政府からの援助があるとないでは多少左右されるが、今後太陽光パネルの設置や太陽光による発電の値段は確実に下がっていくという。

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 従来のエネルギーの価格に比べ、太陽光は安くなる一方だと教えてくれた。問題はバッテリーや他のエネルギーなど太陽が沈んだ 後に電力を供給できるシステムとコストだという。それもスマートグリッドのことを考えれば、近い将来には解決されるかもしれない。太陽光パネルの設置や発電のコストが下がっていけば、 確実に多くの人が選ぶようになる。

 良いことばかりに聞こえてしまうが、果たして本当にそうなのだろうか。かつて、経済的にいいと言われて原子力発電を選ばされた。人の選択基準に経済的なことが第一にきているうちは、自然との共存はできないのではないだろうか。

 

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 一方で彼は、今の人間の生活スタイルの改善も提唱している。例えば、日本のことを例にして、今も日本の多くの家庭では、雨や曇った日に洗濯をすることは少ないはずだろう。生活とは本来はそういうものなのではないかという。

 伝統的な生活を続けているネイティブアメリカンの集落が多く点在するこのニューメキシコだからこそ、太陽を崇めながら少しでも自然と寄り添った生活に近づけていくことが必要なのかもしれない。

 

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